― アイデアは無限にある ―
これが私の信条です。
課題に突き当たったとき、プロジェクトが崖っぷちとなったとき、あきらめずにもがき、考え続けていると音を立ててアイデアがわき出してきます。
ポイントはあきらめないこと、「わかっているが、そう簡単に良いアイデアは出ない」と思わないこと。口に出さないこと。神様は、そんな怖いもの知らずのところにポトリとアイデアを落としてくれます。
会社に入って最初の大きな成果は、あるスクーターエンジンのレイアウト特許です。
設計リーダーから与えられた課題は、「シート高が低くてもフルフェイスヘルメットがシート下に収まる女性用スクーターのエンジンレイアウトを考えよ。」でした。
それまで先輩方がさんざん考えて、そこそこのアイデアが出ていましたが、それには決定的な欠点がありました。先輩方はそれほど期待していなかったのでしょう。そのころほとんど丁稚状態の私とそこそこ経験を積んでいる同僚に対し、なんとなく設計練習のテーマとして与えてくれたのです。
私は先輩方のそのレイアウトがどうしても納得できず、「何としてもひねりだしてやる」とそれまで所属していた実験職場に向かったのです。幸い実験職場は1年前まで所属していたので、気楽にたむろすることができました。カバーを外したスクーターをじっと眺めていると、あるスペースが目に止まりました。「ここにエアクリーナーを持って来れば、劇的に低いエンジンになり、フルフェイスヘルメットが入るのでは?。」
私はすぐに設計職場に戻り、従来のエンジン図面の上にポンチ絵を描き、リーダーに見せました。リーダーは大変直観に優れた人で、それを見るなり、「想定の女性用スクーターではなく、主力モデルのエンジンに採用しよう! すごいのができる。」と私に告げ、さっそくプロジェクトがスタートし、特許も申請しました。リーダーは丁稚の私にそのエンジンの基本レイアウトと、主要部品の設計を任せてくれ、先輩方からは非常に多くのことを学びました。そして、そのエンジンは後20年も主力として会社の収益を支えるモデルの誕生となりました。
このモデルは私にとって最高の思い出です。たくさんの世界中のお客様に、とても便利そうに、気持ち良く使っていただいたからです。海外では他メーカーがコピーエンジンを数多く作り、あの1位のメーカーまでも私の設計したエンジン部品をコピーしたのには驚きました。
そのエンジン開発がひと段落したところで、社内でサスペンションに関する公募があり、プライベートで楽しんでいたジムカーナで、サスを自作していた関係で興味があり、サスペンション開発部門に異動したわけです。
次の出来事は、サスペンション部門で開発したREASというシステムを、某カーメーカーの限定車に何としても採用してもらう際の課題についてです。
限定車というのは、標準部品と違う構成の部品を正規行程で組み立てることが許されず、完成後に別ラインで組み立てることが多いのです。私たちのREASには、サスの動く側に油圧配管があり、限定車に積むには、特別な耐久評価をクリアしなければ許されず、限定車の台数レベルではそこまでの工数と費用が許されませんでした。
それでも、何とか採用してもらいたい。REASが着かなければせっかくの限定車の意味がありません。ただの着せ替え企画車です。そこで考えに考え続け、ダンパーのロッドから配管を出すことを思いつきました。しかし、それだけではスプリングの脱着ができず、いちいち配管を外し油圧系からオイルを出さなければなりません。そこで考え出したのが、ダンパーの下からスプリングを抜く構造です。スプリングシートを2重構造とし、スプリングをダンパー下側から簡単に抜けるようにしたのです。
これで解決!と思ったところ、配管をフロア下に通すことは信頼性上まかりならぬというのです。そこでまたまた考え続けました。配管を室内に通せばいいのです。
しかし、配管を通す穴を開けることは、防錆上まかりならぬというのです。ならばと考え出したのが、エアコンの排水のドレンホースを通す穴です。上手く3次元的に通せば何とか通ります。そこでそのゴム部品をつくり、解決しました。
ご自慢のREASはそこそこの性能まで発揮しましたが、どうしても納得できない。そこからがパフォーマンスダンパーの誕生秘話です(「剛性という言葉が」のコラムで)。
こうして 次々と襲いかかる課題を奇跡的に解決し、すばらしい限定車が発売されました。しかもそれはヤマハ発動機内で最終架装がなされた記念すべきモデルでした。製造部、営業部、技術部がタッグを組んで成し遂げた偉業でした。
その後も新技術アイデアは続き、困れば困るほど次々アイデアが沸いてきます。私が担当した事業部では、必ずアイデア提案活動を実施するようにしています。不思議なことに何年たっても、いくらでも新しいアイデアが色々な社員から生まれてくるのです。
つくづく「アイデアは無限!」だと感じます。
もし、あなたの会社でアイデア出しの活動がうまくいかないようでしたら、いつでもお声をかけてください。